ざつ旅の群馬・島根・鹿児島編が面白い理由とは？

石坂ケンタ先生の旅漫画『ざつ旅 -That’s Journey-』では、主人公・鈴ヶ森ちかが読者のアンケートを元に旅先を決定し、リアルな一人旅を体験していきます。

中でも「群馬」「島根」「鹿児島」を訪れたエピソードは、それぞれの土地の魅力とちかの個性がよく出ており、ファンの間でも特に人気の高い旅回です。

この記事では、その3つの県を舞台にしたエピソードの中で「何が面白いのか？」を、それぞれの舞台背景とストーリー展開に焦点を当てて紹介します。

群馬編の面白さは「温泉×ちかのズボラな魅力」

群馬編では、鈴ヶ森ちかが伊香保温泉を訪れ、温泉街の風情と彼女の自然体な旅スタイルが絶妙に絡み合います。

観光らしい観光をしない、ちかのゆるい旅の様子が笑いと共感を生むポイントです。

「旅＝頑張らない」がテーマとも言える回で、気ままに旅したい人には刺さる内容です。

伊香保温泉で見せるちかの“人間味”

石段街を上がる途中で疲れて座り込んだり、温泉まんじゅうを片手にウロウロしたりと、まるで観光客の一コマのようなリアルな描写が印象的です。

「旅に立派な目的なんていらない」というちかのスタンスが、そのまま読者に自由さを感じさせてくれます。

予定調和を拒む旅にこそ、ざつ旅の魅力が凝縮されています。

旅先の食と偶然の出会いが映える

旅の途中で立ち寄った温泉街の食堂では、地元グルメや素朴なメニューを嬉しそうに食べるちかの姿が描かれています。

「この味、なんか落ち着く……」というセリフに、その場にいる実感や温かさが滲み出ています。

観光地グルメも、ちかのフィルターを通すと「癒し」のアイテムになるのです。

ズボラな旅がくれる“救い”

宿に入ってから、ネーム作業に取りかかるはずが、ちかはそのまま横になって寝てしまいます。

旅に何かを“成し遂げよう”としない姿に、逆に読者はホッとするのです。

頑張らなくていい旅、そんなメッセージを込めた群馬編は、ざつ旅の本質を最もシンプルに表現した回とも言えます。

島根編の面白さは「歴史と不思議の出会い」

島根編では、鈴ヶ森ちかが出雲大社を目指して一人旅をするエピソードが描かれます。

神話の地・島根でちかが感じる静けさと気づきが、シリーズの中でも異彩を放つ魅力として映ります。

笑いやトラブルが多い他の回と比べて、“心の対話”を軸に展開される旅が印象深い回です。

出雲大社で見せたちかの本音

ちかは出雲大社を訪れた際、神聖な空気を前にして「何をお願いするか」を迷います。

結果として彼女はお願いではなく、「これまでの出会いと経験に感謝」を伝えることに。

“旅は感謝で満たされている”という気づきが、読者の心にも静かに響きます。

“神在月”の空気感とストーリーテリング

物語の背景には、神々が出雲に集うとされる“神在月”の伝承があります。

ちかが歩く出雲の町には、神秘的で静かな空気が流れており、それが彼女の内面描写と美しく調和しています。

観光地での出来事よりも、「自分自身との向き合い方」に重きを置いた構成が光ります。

“描かない”ことの面白さ

島根編では、派手な事件や賑やかな出会いはほとんどありません。

しかしだからこそ、旅が持つ「静かな価値」が丁寧に描かれ、読み終えた後に深い余韻が残ります。

ちかが一人でぼんやりと過ごす時間にこそ、旅の本質があるのだと教えてくれるエピソードです。

鹿児島編の面白さは「りりとの共旅と食の記憶」

鹿児島編では、ちかと旅の仲間・りりとの“二人旅”が描かれ、シリーズでも珍しい雰囲気が展開されます。

一人旅とは異なる、誰かと旅をすることで見える風景や会話劇が魅力の中心です。

鹿児島の空気感と地元グルメ、そしてりりとの緩やかな掛け合いが、作品に彩りを加えています。

くろいわラーメンでのリアルなグルメ描写

二人が訪れたのは鹿児島を代表する老舗ラーメン店、くろいわラーメン本店。

ちかが注文したチャーシュー麺の描写は、肉のボリューム感やスープの色まで忠実に再現されており、読者の食欲を刺激する臨場感があります。

「こんな美味しいなら、原稿頑張れるかも…」というちかの一言には、旅と創作のバランスが凝縮されています。

天文館交差点での気づきと会話劇

商店街を歩く中で、りりとちかが立ち止まったのが天文館交差点。

何気ない交差点に書かれていた「天文館」の文字に、ちかはふと興味を持ち、りりとの何気ない会話が弾みます。

この日常的な会話が、旅の記憶として強く残るという“旅あるある”に、多くの読者が共感するシーンです。

“一人じゃない旅”がもたらすもの

りりと過ごす時間の中で、ちかは自然と笑ったり、愚痴をこぼしたりします。

誰かと旅をすることで生まれる余白や会話が、ちかの柔らかさを引き出しているのがこの回の醍醐味です。

鹿児島編は、“人と旅をする面白さ”に気づかせてくれるエピソードとして、シリーズの中でも異色かつ味わい深い内容となっています。

ざつ旅 群馬・島根・鹿児島回の魅力をまとめてみた

『ざつ旅』の中でも、群馬・島根・鹿児島の旅回はそれぞれ異なる魅力と視点があり、読者にさまざまな気づきを与えてくれるエピソードとなっています。

温泉でゆるむ群馬、神話の静寂に触れる島根、仲間との笑顔あふれる鹿児島。

それぞれの旅が持つ“空気感”が、ちかの心にじんわりと染み込み、旅の意味が少しずつ輪郭を持っていく様子が丁寧に描かれています。

それぞれの土地がちかをどう変えたか？

群馬では「肩の力を抜くこと」を学び、島根では「感謝と内省」に向き合い、鹿児島では「誰かと旅する意味」を受け取ったちか。

それらの小さな変化は、彼女の表情やセリフの端々ににじみ出ています。

どの回も、旅先の風景だけでなく、“ちかの変化”を描いているのが本作の奥深さです。

今後の旅にどうつながるかも注目

今後ちかがどんな場所へ向かい、誰と出会い、どんな感情を持つのか。

この3つの旅で得た経験が、彼女の次の選択や創作活動にどう影響していくのかも、読者の楽しみの一つです。

“ざつでいて、豊か”な旅の本質は、これからも作品を通してじわじわと広がっていくことでしょう。